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第21話 火花と騎士団長殺し(1)

2017/03/08 Wed 07:10
category - エッセイ
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◆先日、いつもの医者に行った帰りに今や定例行事となっている「某書店立ち寄り」をしたところ、書店の入り口辺りに、とある文庫本が山のように(というのは大袈裟かな?)積み上げられていた。いったい何の文庫本なのだろうと思って近づくと、それはピース又吉直樹の小説「火花」の文庫本だった。
 そう言えば、いつだったか新聞にでかでかと広告が出ていたことを思い出した。そうだ、確か2月の10日辺りではなかったか? そんなことを思いつつ積まれている文庫本を一冊手に取って表紙を見てみると、芥川賞受賞記念ということで発表した「芥川龍之介への手紙」というタイトルのエッセイも収録されていると書いてあったので、一瞬買うかどうか迷ってしまった。
 というのも小説「火花」自体は芥川賞の発表があった頃に、それが掲載された文藝春秋2015年9月号を購入し今も保有しているので、文庫になったからと言って特に買おうとは思っていなかった。これは単行本が発刊された時もそうだった。いや正確には文藝春秋が発売されてから、すぐに単行本も発売されたのだけど文藝春秋の方が値段が安いし、しかも同時受賞した羽田圭介の「スクラップ・アンド・ビルド」も掲載されていて、それも読みたかった。僕が又吉直樹の大ファンであれば単行本か文庫本を買っていたのだろうが、そこまでのファンではない。また作家に関係なく、単行本や文庫本自体の表紙や体裁にこだわりがあれば、やはりいずれかを買っていたかもしれないが、幸か不幸か僕にはそういったこだわりもない。小説が読めればそれでいい。だからあの時文藝春秋を買ったのだ。「芥川賞受賞作二作が掲載とはお得だ!」と思って買ったのだ。

 しかし文庫本にエッセイが併載されるとは予想していなかった。
 文庫本の場合、他の作家が書いた「解説」が載るのが普通だ。小説だけでなく、その「解説」を読むことも僕は好きだし「火花」も文庫本になれば、きっと他の著名作家が解説を書くのだろうと思っていた。でも解説が加わるからと言ってそれが文庫本を買う理由にまではならない。「火花」に限らず解説にそこまでの興味が僕にはない。ところが「火花」の文庫本は解説ではなく「芥川龍之介への手紙」というエッセイを載せたのだ。これには心が揺れた。値段を見ると626円。決して安くはない。どうするか……。

 しばらく悩んだ末に買わないことにした。よくよく考えてみれば、この「火花」という小説、僕にはさほど面白いとは思えなかったのだ。
 でもこれは「火花」に限った話でない。過去に様々な芥川賞受賞作を読んだが、どの小説もその価値が僕にはよくわからなくて、たいていの場合「これのどこがいいのか?」、「これのどこが面白いのか?」というクエスチョンばかりが残った。それはすなわち芥川賞の受賞基準というものがよくわからないということであり、つまりは僕に文藝を理解する能力がないということであって決して作家さんや小説そのものが大したものではないということではない。
 そんな僕みたいな人間が今回の「火花」の文庫本を買うという気持ちになったとしたら、それは単に世間の流行りに簡単に乗せられてしまったからではないかと思い直したのだ。

「火花」は文庫本発売のタイミングに合わせたのか某メジャーテレビ局にて、そのドラマの放送が始まった。更には同じ局にて芸人としての仕事をこなしながら2作目の執筆に向き合う又吉直樹の日常を映し出したスペシャル番組も放映された。聞くところによると映画化も予定されているのだとか。
「火花」はまた販売部数を伸ばし、更には各種関連副産物が売れると見込まれているのだろう。職業作家による商業小説であるからして商行為が行われるのは当たり前のことだ。だが実際に山積みされている「火花」の文庫本を見て「本当にこんなに売れるのかしら?」と思ったのも事実だ。累計300万部超えというようなことを耳にしたりするが、よくよく考えてみると書店や図書館等の本を扱う場所以外で「火花」を見た記憶がない。(数年前に350万部?を記録した湊かなえの「告白」の時もそうだった。)「火花」に限らず最近は新聞の広告で大きく宣伝されてはいるものの実際にはあまり目にすることがないという本が多いように思えるのだけど、それは僕が行動範囲が狭い人間だからだろうか?

 そんなことを思っていたりしたら、今度は村上春樹の新作だ。

(次回「第22話 火花と騎士団長殺し(2)」に続く)





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